コラム

妖しくて美しいチェコアニメの世界

独特な質感が美しいクレイアニメ

石や粘土を使ったアニメーション

石や粘土を使ったアニメーション

チェコは独特な雰囲気を持ったアニメーションが盛んな国です。ユーモラスな中にも毒の効いた妖しく美しい世界を楽しむことができる作品が数多く制作されています。その中で今回特にご紹介したいのが、ヤン・シュヴァンクマイエルという人の作品です。シュヴァンクマイエルは、実写やパペットアニメ、クレイアニメなどを融合させて彼ならではの世界を築き上げています。特にクレイアニメの表現が素晴らしく、その不思議な映像は観る人の目をくぎ付けにします。クレイアニメというのは、粘土を素材として少しずつ被写体を変形させていきそれをコマ撮りすることによって制作されるアニメーションのことです。以前このサイトでパペットアニメについてご紹介しましたが、それの粘土版となります。シュヴァンクマイエルは、粘土を使って人体の一部をグロテスクに表現したり、実写では不可能と思われるような動作をCGを使うことなくクレイアニメで表現しています。粘土による不思議な動きがとても魅力的です。

ヤン・シュヴァンクマイエルについて

動く肉片を粘土で表現したり

動く肉片を粘土で表現したり

ヤン・シュヴァンクマイエルは、チェコスロバキア生まれの芸術家です。アニメーション映画の監督として有名ですが、シュルレアリストとしてドローイングやテラコッタ、オブジェなどの分野でも精力的に活動しています。奥さんのエヴァが作業を手伝い、共同で作品を生み出しています。シュヴァンクマイエルの作品の中には、「食べる」という行為が頻繁に登場します。また、性的な表現も多く見られます。さらに、両開きのタンスや引き出し付きの木の机、動く肉片や衣装など、別々の作品に共通して登場するモチーフがあり、独自の世界を繰り広げています。アニメ部分ではなく実写部分においてもストップモーション・アニメーションを多用し、CGなどは一切利用しないアナログ主義を貫いています。作品はひじょうにシュールですが、感覚に直接訴えかけてくる力があり、「難解」というイメージはありません。

フード

食べるという行為はエロティック

食べるという行為はエロティック

シュヴァンクマイエルの作品には、『アリス』、『オテサーネク』、『悦楽共犯者』などと長編映画がたくさんありますが、短編作品もとても魅力的でお勧めです。特に『フード』という作品は衝撃的で、僕は思わず何度も観返してしまいました。朝食、昼食、夕食の三つの短い作品がセットになっているのですが、そのどれもが独特の妖しい魅力を持っています。(夕食は少々グロテスクすぎると個人的には思っていますが・・・)食事をしようと人間が口を開ける部分などにクレイアニメの技術が使われていてハッとします。また効果音の使い方も素晴らしく、目と耳で感覚的に楽しませてくれるでしょう。短編作品の中からもう1作品お勧めするなら、『石のゲーム』という作品を挙げさせていただきます。時計と石だけで人間は登場しない作品ですが、人の一生を想像させるとても美しい作品です。このページの下部分で紹介しているDVDの中に収録されていますので、機会がありましたらぜひご覧ください。

悦楽共犯者

パンをそんなところに入れるなんて・・・

パンをそんなところに入れるなんて・・・

シュヴァンクマイエルといえばこの作品というくらい有名なのが『悦楽共犯者』という作品です。この作品はタイトルの通り、様々な性的嗜好を持った男女が登場し、実際に接することはないにも関わらず「性的快楽を共有する」という何とも不思議なお話です。(実際に観ていただくしか説明のしようがありません・・・)性的快楽にのめりこんでいく人間の姿が、大真面目に、そして壮大に描かれていて、人間って可笑しいなあと感じられる素敵な作品になっています。ネタばれになってしまってはいけませんのであまり多くは書きませんが、たとえばある女が登場します。この女は仕事の合間に暇さえあればパンを指でほじってまるめ、それを鞄の中に溜め込んでいます。自宅に帰って一人きりになるとそれを取り出して集めたパンの球を自らの鼻の穴に・・・といった具合です。登場人物はすべて恐ろしいくらいの変態ばかりです。僕は自分のことを変態だと思っていましたが、この作品を観たら自分がノーマルに思えてきたほどです。作品のあちこちでクレイアニメが使われていて、それが独特の妖しい美しさを演出しています。

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