コラム

妖しくて美しい乱歩の世界

妖しい美しさ

人の心の奥底にうごめく美しさ

人の心の奥底にうごめく美しさ

夕焼けを見て美しいと思ったり、宝石のキラキラした光を見てきれいだなと感じることとは異なり、人間の心の動き、特にエロスに関して独特の美しさを感じることがあります。むき出しにされた人間の欲望は、妖しくも美しい光を放ちます。そんな、人の心の奥底に潜む欲望を、探偵小説というジャンルを通して描いたのが江戸川乱歩という作家です。僕が初めて読んだ乱歩の作品は『人間椅子』でした。人間の欲望の美しさ、微妙な心の動きが生み出す美しさなど、それまで感じたことのない美しさに出逢って新鮮な感動を覚えたものです。

江戸川乱歩について

江戸川乱歩(wikipediaより)

江戸川乱歩(wikipediaより)

江戸川乱歩(えどがわらんぽ)は、大正から昭和期にかけて活躍した推理小説作家です。1894年に生まれて1965年に70歳で亡くなりました。本名を平井太郎と言います。江戸川乱歩というペンネームは、アメリカの文豪エドガー・アラン・ポーをもじったものです。主な作品に『二銭銅貨』『双生児』『D坂の殺人事件』『屋根裏の散歩者』『人間椅子』『パノラマ島奇談』『鏡地獄』『芋虫』『押絵と旅する男』『黒蜥蜴』などがあります。奇想天外な物語、おどろおどろしい怪奇的な描写の中にも独特な美しさを秘めた作風が特徴で、その作品の多くが映画化されるなど、今なおたくさんの人に愛されている作家です。

人間椅子

椅子の中に人が・・・

椅子の中に人が・・・

僕が初めて読んで感動した『人間椅子』という作品は、椅子の中に入って息をひそめ、何も知らずそこに座る人を抱きしめるように愛撫することに快感を覚えてしまったある男の物語です。僕はそのような性癖は持ってはいないのですが、その繊細な心理描写によって、主人公の気持ちをまるで自分のことのように感じてしまうという不思議な作品です。それは、人間ならば誰もが隠し持っている己の性的嗜好に対する甘い幻想のようなものが描かれているからなのでしょう。「非日常」という言葉がありますが、人はこれがたまらなく欲しくなることがあります。非日常は日常と遠くかけ離れていればいるほど新鮮な感動を与えてくれるものです。この『人間椅子』という作品は何度も映画化されていて、個人的には清水美砂さん主演のものがオススメです。

押絵と旅する男

乱歩の小説には浅草がよく登場します

乱歩の小説には浅草がよく登場します

乱歩の作品の中で僕がもっとも好きなのが『押絵と旅する男』という短編です。この作品は数ある乱歩作品の中でも特別美しい光を放っているように僕には感じられます。絵の中の女に恋をしてしまった男の物語なのですが、そのストーリーの運び方や幻想的な描写にうっとりするような美しさを感じます。目が覚めた後もなかなか忘れることのできない印象的な夢を見ているかのような作品で、哀愁や旅情、一抹の孤独感も感じられます。もちろん作り話なのですが、主人公のような男がこの世のどこかに存在しているかのように思ってしまいます。

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