生命のオペラ

お祭りは五感すべてを刺激します
子供時代、夏に催されるお祭りは一年のうちでもっとも楽しみなもののひとつでした。近所の神社で行われる宵宮、花火大会、町が主催の盆踊り、商店街で催される夕涼みイベント、そして僕の故郷は青森ですから、東北三大祭りのひとつであるねぶた祭りがあります。華やかに着飾った群衆と熱気。屋台の美しい灯り。子供たちの元気な声。太鼓と笛の音。綿菓子屋と金魚すくい。交錯する男女の想い。線香花火。そのどれもが子供だった僕の心に不思議な魅力を持って印象付けられました。お祭りは音楽、舞踊、照明、香り、味、人とのふれあいなど、人間の五感すべてを刺激する総合芸術のようなものです。「生命のオペラ」と言っても良いかもしれません。それが神社やお寺、地域の名所を舞台として豪華絢爛に行われます。
お祭りの形式

非日常を美しく演出
お祭りの起源をたどると、豊穣、生と死、夫婦円満、子孫繁栄など、人間の生命に一番近いところで祝福し、感謝するための、非日常的なイベントとして創出されたものが多いですね。また、節句などの年中行事が発展したもの、偉人の慰霊のために行われるものなどもあります。豪華な神輿や工夫を凝らした美しい衣装と化粧によって人々は非日常を演出します。日常の中に非日常を創り上げることによって、人々は一種の「新鮮さ」を心の中に取り戻し、人間関係の疎遠になった地域住民は心をひとつにします。基本的にお祭りは厳粛な場面と賑やかな場面の二面性を持ち、厳粛な場面では人々は日常よりも厳しく、伝統や秩序を守ることを要求されます。そして一方で、日常では許されないような秩序や常識を超えた行為(ふんどし一丁、女装した男性など)も、お祭りの期間にだけは伝統的に許されます。
様々な夏祭り

青森のねぶた祭り
日本の夏祭りは、お盆や七夕、祇園祭などが絡んだものであることが多いですね。また、農村では夏の農作業の疲れを労い解消するための行事、都市では江戸時代以前に頻繁に蔓延した疫病を封じ込めるためのもの、その死者を弔う行事を起源とするものが多い傾向にあります。代表的な夏祭りとして、青森のねぶた祭、宮城の仙台七夕まつり、秋田の秋田竿燈まつり、東京の深川祭、京都の祇園祭、大阪の天神祭、徳島の阿波踊り、高知のよさこい祭りなどがあります。その他にも宵宮や花火大会の多くが夏に行われますので、夏はお祭りの季節と言っても良いでしょう。
お祭りのあと

お祭りの終わりの美しさ
終わった後の一抹の寂しさを楽しむこともまた、お祭りの魅力の一つであると僕は思っています。特に激しい動作を伴う夏祭りにおいては、その華やかさが消え去った後は、静けさを実感しますね。一年に一度の非日常を楽しんだ後、日常へと帰って行く際に訪れる静寂はとても美しいものです。笛太鼓の響きが耳の奥で名残り、ちょうちんの灯が消えて朝がやってきます。映画館から出ていく時のように、幻想的な夢の空間から現実の世界へと戻ります。そしてまた一年後の非日常を期待しながら日常を生きていくのです。映画『千と千尋の神隠し』を観ると僕はいつも夏祭りを思い出します。主人公が非日常を体験し、日常へと帰っていく様が描かれている作品だからです。
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